『TIMELESS』
ページを開くとそれがいつの時代であろうと私の時間になる瞬間がとても好きだ。
今シーズンのテーマである『TIMELESS』は朝吹真理子さんの連載中の小説からとったものだ。彼女と同い年の私は小説の端々から自分の懐かしい記憶、例えば使い捨てカメラの、『そこらじゅうでジージー樹脂製の歯車に音がする。』とか、そういった1節から日常の些細な記憶と今を重ねることがある。
遺品と向き合うことで今を撮る石内都さんのフリーダカーロの写真たちも同じであった。大切に着られたドレス、靴、化粧品から感じたのは、彼女の強い生涯だけでなく、ただの女であったことを思わせる何かだった。
今回は二人の強い女性の生み出した物からインスピレーションをもらった。
私の日々の作業はそういった記憶の編集や整理だったりして、古い生地や技術に出会った時に記憶の匂いを感じると、心を打たれ、そしてそれをどうやって今の自分の纏いたいものに昇華させるのかと試行錯誤する。いわば日記を整理する様に。
このコレクションを作っている最中、古く美しい生地やレースのアーカイブを見てきた。それは日本から遠く離れた場所でもあったし、雪深い場所でもあった。それらは懐かしく、繊細で儚く美しいものだった。誰かのために作られた美しい生地たちは、自分のクローゼットに入っていたら、明日着たいなと思えるようなものだった。
日本に帰ると事務所の窓の外が一面桜の海だった。こんなにゆっくり柄を描くのは久しぶりだなぁと思いながら淡いピンク色から枯れてゆく濁ったピンク色まで、描いた。異国でみた絣のような生地が私にとっての桜の生地へと変わっていった。
自分の中は、くだらない記憶も日常的な出来事も、小説の一節や写真のディテール、古い生地と最先端の技術、その全部がまぜこぜになっていて、レイヤーになっていて、それが私の日常だし、私にとってのTIMELESSなのだ。
フリーダが最期に遺した美しい服たちのように、大切に作ったこの服を残したい。誰かにとってもそうであったらなお嬉しいなぁと思う。そして、フリーダが今生きていたら着て欲しいし、小説の中のうみちゃんもきっと着てくれると思う。そんな気持ちで作った私のTIMELESSな服たちだ。
時代はいつでもいいんだ。けれどきっと私は死ぬ前にこのドレスをみたら、一面桜の海だった春の日を思い出すだろう。
mame kurogouchi
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